東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)109号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決にこれを取り消すべき違法の点が存するかどうかについて検討する。
1 成立について争いのない甲第二号証の一、二によれば、本願発明の願書に添付した明細書には、特許請求の範囲として前示当事者間に争いのない本願発明の要旨(事実摘示第二の二参照)のとおりのことが記載されており、これによれば、本願第一発明が、リベツト状に形成されて一端に頭部を備えた脚部材において、<1>該頭部が脚部材の径長に比して充分に薄いこと、及び、<2>該頭部と脚部材との付根にテーパー状の大径頸部を備えることを構成要件として包含していることは明らかである。
2 これに対し、成立について争いのない甲第六号証(引用例)によれば、引用例には審決が認定したとおりの時計用文字板が記載されているものと認められる。
原告は、引用例のものにあつては、リベツト状に形成されて一端に頭部を備えた脚部材において、該頭部が脚部材の径長に比して薄いかどうかは不明である旨主張するが、引用例記載の図面(別紙図面(二)のとおり)及び引用例中の「脚2は比較的広くて薄い頭部7を具備する」旨の記載(甲第六号証一頁六一~六三行目)に照らし、審決の引用例記載事項の認定は、これを正当として是認することができる。
もつとも、原告の主張は、本願第一発明において前記<1>の構成を採つているのは、頭部の熱容量を小さくすることによつて、超音波溶接に際し接合部位への超音波エネルギーの集中的作用を効果的に発揮させるとともに、他の部分へ加熱による変形等の弊害が及ぶことを極力避けるためであり、このような目的との関連で頭部を脚部材の径長に比し充分に薄くすることは引用例に開示されていない旨をいうものである。
本願明細書には、脚部材の頭部を脚部材の径長に比して充分に薄くすることに関連して、「前記頭部を肉薄に形成して熱容量を小さくしたことにより、瞬間的に与える超音波エネルギーで、他の肉厚部分及び文字板に対する加熱による弊害を極力避けるとともに当該部分への超音波エネルギーの集中効果を発揮させることができ」(前掲甲第二号証の二)るとの効果を奏することが記載されていることは確かである。しかしながら、前掲甲第六号証によれば、引用例記載の金属製リベツト状脚部材の頭部も脚部材の径長に比して薄く形成されており、該頭部の肉厚自体も、これを嵌合接合すべき金属製文字板本体に設けられた凹部の深さ以下のものに設定されているのであるから、成立について争いのない甲第七号証及び弁論の全趣旨によつて金属薄板の接合手段として慣用されていたものと認められる超音波溶接をもつて引用例記載の脚部材を文字板の凹部に接合しようとすることになんらの困難は認められず、右のように超音波溶接を採用することとした場合には、引用例のものにおいても、本願明細書に記載された前記のような効果を奏することは、超音波溶接技術及び熱力学上自明のことであつて、これをもつて格別予測できない特有の効果を奏するものということはできないし、超音波溶接を採用する以上、これをより効果的にしかも他の部位に変形等の弊害が生じないよう、必要に応じ脚部材の頭部をより薄くし、あるいは脚部材の径長をより大きくする等して本願第一発明の前記<1>の構成のようにする程度のことは、当業者が適宜設計し得る事項であると認められる。原告の主張は、結局、引用例の脚部材も、慣用手段である超音波溶接によつて接合するに適した形態を備えていることを無視して、引用例に開示された脚部材の形態に即することなく、超音波溶接をもつて接合するに適した脚部材の形態に想到することは容易でないことをいうに帰するものであつて、その採り得ないことはいうまでもない。
3 原告は、次に、超音波溶接に際してその加熱による変形を避けるべく熱容量の大きい局部的肥大部としてテーパー状の大径頸部を設けることは、鋳造等の分野の常套手段を採用したものとはいえない旨主張する。
本願第一発明におけるテーパー状の大径頸部は、本願明細書の発明の詳細な説明中に、「大径頸部115aは、脚部材115に対して一定の引張り及び/又は曲げの力が加わつたとき、頭部114に対する脚部材115の付根部分からその脚部材115が切断することを防止する機能を果たす。即ち、……その付根に大径頸部115aを備える脚部材115は、大径頸部115aを備えないものよりも、引張り強度及び曲げ強度が著しく向上する。」(前掲甲第二号証の一の九頁六~一六行目)と記載されているとおり、応力集中を回避して機械的強度を向上する機能を有するものである。しかして、リベツト状の部材にあつてその脚部に引張りないし曲げの力が作用することが予測される場合に、その頭部と脚部との付根にテーパー状の大径頸部を設けて機械的強度を向上することは、弁論の全趣旨により、常套手段であると認められる。してみれば、引用例記載のリベツト状脚部材においても、その機械的強度を向上すべく、これに本願第一発明におけると同様のテーパー状の大径頸部を設けることになんら困難な点はなく、それによつて超音波溶接をすることが妨げられるべき理由はないから、前示のとおり超音波溶接を採用することになんら困難のない引用例記載のリベツト状脚部材にテーパー状の大径頸部を設けて本願第一発明の前記<2>の要件のように構成することは、鋳造の分野における技術を勘案するまでもなく、容易であるというべきである。
確かに本願明細書の発明の詳細な説明には、右の要件<2>に関連して、「頭部付根を大径頸部としてあることにより、該大径頸部の容積増加に伴う熱容量の増大部として作用し、前述の加熱による当該部の変形等の弊害防止効果」(前掲甲第二号証の二)を奏する旨の記載があるが、該効果は、前示のとおり本願第一発明の前記<2>の構成を採ることが引用例及び常套手段に基づいて容易である以上、これに超音波溶接を施すことによつて当然奏されるものの域を出るものではなく、これをもつて格別予測し難い特有の効果ということはできないものである。
原告の主張は、結局、本願第一発明の前記<2>の構成は、超音波溶接に係る技術思想のみに基づいては容易に想到することができないというものに帰し、他の技術思想に基づいて同じ構成に容易に想到できることを無視したものであつて、その採り得ないことはいうまでもない。
4 以上のとおりであるから、原告が審決の取消事由として主張するところは全て理由がなく、その他審決にこれを取り消すべき違法の点を認めることはできない。
三 よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとする。
〔編注その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
1 文字板本体は、アルミニウムにより形成されていてその所定位置に凹部を備え、一方、脚部材はアルミニウム又はこれと同効素材によりリベツト状に形成されていてその一端に頭部と、該頭部と脚部材との付根にテーパー状の大径頸部とを備え、前記頭部が脚部材の径長に比して充分に薄くて前記凹部に嵌入する厚さを有していて該凹部への嵌合圧接下に超音波溶接により一体的に接合していることを特徴とする腕時計用文字板。
2 文字板をアルミニウムにより形成してその所定位置に凹部を設けるとともに該凹部に中央部が高い突起面を設け、一方脚部材をアルミニウム又はこれと同効素材によりリベツト状に形成して一端に前記脚部材の径長に比して充分に薄くて前記凹部に嵌入する厚さを有する頭部を設け、該頭部を前記凹部に嵌合した後、前記脚部材を挿入する中空部と該頭部の裏側に当接する先端面とを有する超音波溶接機のチツプの該中空部に前記脚部材を挿入し該先端面を該頭部の裏面に圧接せしめた状態下に、該頭部に超音波振動を与えることにより該頭部を前記凹部に一体的に接合することを特徴とする腕時計用文字板の製造方法。
3 文字板本体をアルミニウムにより形成してその所定位置に凹部を設けるとともに該凹部に中央が高い突起面を設け、一方、脚部材をアルミニウム又はこれと同効素材によりリベツト状に形成してその一端に頭部と、該頭部と脚部材との付根にテーパー状の大径頸部とを設け、しかも、該頭部を脚部材の径長に比して充分に薄くて前記凹部に嵌入する厚さに形成し、該頭部を前記凹部に嵌合せしめた後に、前記脚部材を挿入し前記大径頸部と嵌合する中空部と該頭部の裏側に当接する先端面とを有する超音波溶接機のチツプの該中空部に前記脚部材及び大径頸部を挿入嵌合し該先端面を該頭部の裏面に圧接せしめた状態下に、該頭部に超音波振動を与えることにより、該頭部を前記凹部に一体的に接合することを特徴とする腕時計用文字板の製造方法。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一) 本願明細書添付図面(抄)
<省略>
<省略>
別紙図面(二) 引用例
<省略>